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外伝: 血の代償・1

ユージア大陸沖 デラルーシ領空 11月24日 19:25
ボーイング777の静かな機内でトンプソンは熟睡をしている。明日は最後の一人、ラリー・Pixy・フォルクに会う為にぐっすり寝ている必要があったからだ。刹那は到着が遅れている事に多少苛ついていた。
「到着40分遅れ、か。出発も30分遅れだったが・・・・」
原因は国境に於ける紛争、正確にはISAF軍とエルジア残党の戦闘により治安出動がなされたからである。しかも戦火は日に日に拡大、空港が迫撃砲攻撃を受けたとのニュースを受けたのが1週間前だった。刹那にとって取るに値しなかった紛争は思わぬ所で彼の妨害をした。彼は迷わずARC二個分隊を送り込み、戦線を押し戻して、戦線が国境で落ち着くまで出発を待っていたので唯でさえ不機嫌だった。
(ISAFが治安出動してるとなると厄介だな・・・ラリーは確か第45傭兵師団の所属だ。これは戦線まで出張る必要があるかもな・・・・?)
窓に目をやった瞬間、白い物体が急接近してくるのが見えた。
「ミサイルッ!?」
ドンッ!!
機体は激震し、シートベルトをつけず寝ていた乗客や歩いていた客室乗務員が吹っ飛ばされ、壁や天上に叩きつけられる。だが、胴体に大穴は開いておらず左エンジンが大破しただけのようだ。しかし、二基しかエンジンのない機体は大きく傾いた
「な、何だ!」
「うわあああ!!」
「助けて!神様!」
「きゃあああああ!!」
客室内はパニックに陥り、トンプソンもパニックに陥った一人だった。しかし、刹那と操縦桿を握っていた副操縦士だけは冷静だった。副操縦士ははどうにかして水平に近い形を取ろうとしていた。しかし彼が機長に目をやると、機長は風防を突き破ってきた破片で脇腹を大怪我していた。刹那はコレまでの経験と直感を信じ、コックピットに向けて立ち上がった。この事態に対応できるパイロットは、民間航空の者では限界があるからだ。幸いにして直ぐにファイナルアプローチを取れる位置だったのをミサイルが当たる直前にモニターでチェックしていた。高度は1万フィートを切っている
「冗談じゃないな、まったく・・・・」
「お、お客様!危険ですからお立ちにならないで!」
「私は戦闘機パイロットだ。コックピットに案内しろ。さっさとしないとサメに食われるか、衝撃で圧死するか、それとも焼け死ぬかの三択以外ないぞ」
「・・・・は、はい!」
軽傷の客室乗務員に、航空操縦士の免許を見せながらハイジャック紛いの口調で言う。いつもの目で相手を見るが、それは人殺しの目なのだ。気圧(けお)されて客室乗務員は指示に従った。コックピットに入ると、直ぐに状況を確認する
「操縦士か?機長を下げて手当てしろ」
「誰だ!ここは立ち入り禁止だぞ!それ以前に状況がわかっているのか!」
「機長をどけろ、スコーク7700は出してるのか?メーデー宣言は?」
「人の話をきk――」
「してるかしてないかハッキリしろ。私は戦闘機乗りだ。こういう状況なら慣れっこだ」
機長を機長席から下げると、そこに座り、発電バッテリー装置を切り、スロットルレバーを第一エンジンをOff、フュエルカットオフ、バルブクローズの一連の作業をこなし、フラップ角を15度から30度に変更、第二エンジン出力を上げ、ギアを下げた。副操縦士は重くなった操縦桿を必死に動かすので精一杯だった。
「ラダーを右に蹴れ、機体は左に傾いているからな。降下率も一定にしろ」
「やってるよ!クソッ!操縦桿が重い!」
刹那はトランスポンダの周波数が7700でない事に気付き、変えながら管制塔に緊急事態宣言を行なう
「オールステーション、オールステーション。メーデー・メーデー・メーデー、此方はデラルーシ航空84便。国籍不明機による攻撃を受けた。これより緊急着陸を行う、誘導頼む」
≪84便、此方デラルーシアプローチ。攻撃を受けた、了解しました。被害報告お願いします。Over≫
「おい、何をやっている!?」
「見ての通りさ。緊急通報をやっている。そっちはADIと操縦桿に全力を注げ。・・・・デラルーシ・アプローチ、此方の被害は甚大です。被弾により第一エンジン大破、機長が破片で重傷。乗客乗員に負傷者多数、フライバイワイヤ系統が1本を除いてダウン。ILSは無事だ」
副操縦士が奇異の目を向けるが、それ所ではない。迷わず損害を報告する。
≪第一エンジン大破、乗客乗務員が負傷多数、操縦系統損傷、了解。消防車・救急車を待機させ滑走路20R、Lを開けておきます。どちらでもどうぞ。2分後に0-2-0へ右旋回してください≫
「84便了解、・・・手伝うよ。堕ちるのは此方としても御免だ」
「・・・頼む」
二人で操縦桿を強く傾け、副操縦士が目いっぱいラダーを蹴る。
「ダメだ!これ以上は・・・ッ!」
副操縦士が操縦桿と格闘するが、それでも右へのバンク角は取れない。バランスが悪すぎる。刹那は追撃の可能性をふと考え外を見る。僅かな光を見た直後、刹那は操縦桿を逆に切った
「!?おい、何やってるんだ!逆に切るんじゃない!」
「撃ってきた戦闘機が止めを刺しに来た。無理にでも旋回しなければ殺られるぞ」
「何だって!?うおおッ!?」
急激な横殴りのGから下方向へのGへと急変する。
「バ、馬鹿!それ以上やったら分解するぞ!!」
「ボーイング製の機体はエアバスやイリューシンよりも頑丈に作られてる。3Gまでなら大丈夫だ。ただ左翼が千切れない事を祈るばかりだが」
刹那は第二エンジンの出力を最大にし、左にナイフエッジ、150度3Gターンで飛んできた敵機と放たれた機関砲弾をかわす。高度を犠牲にしつつ、速度も上手く殺して飛ぶ
「か、かわした!?」
「今のは挨拶代わりだ、もう一回来るぞ」
「え!?」
「オールステーション、オールステーション。此方デラルーシ航空84便。緊急連絡、国籍不明機はSu-33。デラルーシ・アプローチ、ISAF空軍への通告はどうした」
≪通告は完了していますが、ETA19:37です。それまで持たせてください。一次レーダーで国籍不明機と84便の現在位置を確認しました。そちらを追っているようです≫
「84便、Roger。ちょっと無茶をやるぞ。奴を空港から引き離す。アレがミサイルを空港に向けてはなったら大惨事って言うレベルでは済まない」
機首は下を向いたままだが、機体の姿勢は地面とは逆さまの状態だった。そのまま操縦桿を左に傾け、バレルロールする。
「こいつは旅客機だぞ!あんたは戦闘機乗りらしいけどもっと丁寧に――」
「来るぞ!」
海面スレスレで機体を立て直し、フラップ角45度にエンジン出力を最大にセット。右にラダーを蹴ってバランスを整える。それを同時にやっている間に、Su-33は後方に回っていた。速度は270kt、対地高度は1200ftだ。ラダー左を蹴っ飛ばし、右を緩める。直後曳航弾が機体の右を通過した
ヒュンヒュンヒュン!
「うわわ!撃ってきた!撃ってきた!」
≪84便?応答してください!84便!?≫
「此方デラルーシ航空84便、現在敵戦闘機が後方に喰らい付いている。現在位置は・・・デラルーシ空港から0-1-2、距離12海里!高度1200ft、方位3-4-6に向けジグザグ飛行中!奴は撃ってきた」
ガタガタ操縦桿が揺れ、失速を警告してくる。エンジン一基では速度は得られない。持てる揚力を最大に生かし、出来る限り高度を稼ぐ。
(落とす心算ならミサイルを撃っている筈・・・何故撃たん?)
ラダー右を蹴り続ける足に力を入れて、さらに押し込み、左を緩める。また機体のバランスを取った。気が付けば後方の敵機は消え去っていた。
≪此方ISAF空軍、コールサイン:レイピア17、84便無事か?≫
「此方84便、無事です。国籍不明機は何所に?」
≪影も無い、何所にもいないよ≫
「―――84便了解。・・・・着陸態勢に入るぞ。副操縦士、ゆっくり左旋回しろ」
「あ、ああ・・・」

19:50 デラルーシ航空84便はデラルーシ国際空港に着陸した。

「エルジア残党最後の足掻きか 昨日、デラルーシ国際空港の北東20km沖でデラルーシ航空84便(オーシア・ ボーイング777型機〔攻撃を受けた機と同型機〕)が国籍不明機による攻撃を受けた事をデラルーシ警察が発表した。機体は左側のエンジンが大破したものの空港に着陸に成功したという。怪我人は出たが乗員乗客117名全員命に別状は無し。現在の乗員・乗客から任意で事情を聞いているが、二名の乗客が行方不明となっている。戦闘機のミサイル攻撃の後に戦闘機からの機銃による攻撃を受けた。との証言や機体が下向きに急降下しながら旋回して戦闘機の銃撃を避けたり、海面ギリギリで機体を横滑りさせて銃撃をかわしたとの証言もある。オーシア・NTSB(国家運輸安全委員会)は調査員を派遣し損傷具合やフライトデータレコーダーやコックピットボイスレコーダーを確認すると発表した。政府筋からはデラルーシのエルジア残党軍は国境付近まで追い詰められており、状況を打開する為の窮地の攻撃との見解もある」

ノースポイント経済新聞 2005年11月26日一面トップ・国際面記事より抜粋

デラルーシ国境 12月26日
「終わったようだな」
新聞を眺めつつも、64式小銃を傍に立てかけ周囲への警戒を解かない刹那はインタビューの質問と答えのやり取りが聞こえなくなった事を感じる。
「どうだった?ラリーフォルクへのインタビューは」
「お陰様で、これで全員です。有難う御座いました」
「気にするな。手付金65万、完了時には35万、悪くない仕事だった。それより、、これを見ろよ」
刹那はトンプソンに新聞の記事を見せた。トンプソンは顔が少し青ざめている。
「やっぱり逃げなかったほうが・・・」
「お前は良いかも知れんが、私の方はどうなる。引っ張りだこにされるのが落ちだ。好き好んで英雄になるほど私は馬鹿ではない。自分から宣伝するのは政治屋、会社と警察の3つと相場は決まっている」
刹那は苦笑しつつも、銃を取って立ち上がる。トンプソンも成程、と肩をすくんで見せた。
「ああ、そうだ。これを片羽に。大事な事を忘れるところだった」
「はあ・・・解りました」
カサと渡された紙を開けると中には

鬼神の事を知りたければ此処に

オーシア・オーレッド・第12番地の4階建て廃ビル 2007年1月15日 18:45 404号室

「これって――」
「君は行かない方が身の為だ。そいつは企業秘密なんでね。その場所に覗き見たら・・・命は無いぞ」
刹那は静かに警告する。表面は何ら変わらない表情だが、内面に何かを感じた
「・・・解りました」
「物分かりが良くて宜しい。サッサと渡してここから去るぞ」
トンプソンがラリーにそれを渡しに行くのを眼で追いつつ、刹那は新聞を破り、燃やして捨てた
「英雄なぞ・・・"反吐が出る"」
英雄などという称賛も、彼の価値観にとっては自らを縛る鎖にすぎない。戦場に生きる人間は、戦場で死ぬ。それ以上でも、それ以下でもない。それが出来ぬ者はまた生き地獄へと歩み続ける。戦場は例えるならば、そう・・・

体験した事の無い者にはこの上なく甘美で、この上なく死に近い、パンドラの箱。そして限り無い災厄の先の最後の希望とは、生き抜く事なのだ。

誰かが言った

「パンドラの箱の唯一の悪い所は、人に一筋の希望を見せた事である。」

箱を開けた者が"死"と言う災厄から逃れられる方法とは二つある。

1.即座に戦場から離れ記憶を封印する

2.戦場を戦い抜き、自らを束縛する者の目的を果たした上で生還する

だが、戦いに向かう者は逃げ出してはならない。それは古今東西決して変わらぬ事である。破れば罰が待っており、死が待っている事もある。つまり、それを回避した上で災厄から逃れるには戦い抜く事しかない。そして、その希望を攫み取った者の先にはまた戦場に連れ戻そうとする人殺しの自分がいて臆病者の自分がいる。人はまた選択する。

1.もう一度パンドラの箱を開ける

2.人殺しの自分を畏れ、それを封印する

前者を選択した者は、二度と娑婆の空気を美味しく感じる事はない。刹那は迷う事無く前者を選択した。何故なら、彼なりの[世界平和]を達成するには仮令"目の前にどう見ても敵いそうも無い敵が立ち塞がろうと、到底飛び越える事が出来ない様な崖があろうと、決して、何があっても"命を惜しんではならないからだ。そうやって数多の戦場を戦い続けて来た彼は、とうとう娑婆の価値観すら超越して一種の悟りを開いたのだ


「不明二名の捜索は中止 去る2005年11月24日に発生した[デラルーシ航空84便攻撃事件]において、エルジア残党が行方不明になった旧エルジア軍機が使用された事でISAF軍は本格的にエルジア軍残党を掃討する事が9日ISAF軍が公表。この残党掃討作戦名を「カンティーナ」と命名。ユージア大陸全土のISAF陸・海・空・海兵隊の4軍に掃討作戦をISAF総司令部は指示した

なお、当事件の被害者のデラルーシ航空777型機84便と乗員乗客117名の命を救った自称戦闘機パイロット含む2名は行方不明のまま、ISAFとデラルーシ警察が共同で捜索に当たっていて、2名の乗客の捜索に傾注していた。

されど2005年 12月3日に不明の2名の乗客の捜索は中止される」

オーシア・タイムズ 2005年12月10日の国際面の小さな記事より抜粋

「ユージア大陸に激震! エルジア残党が[自由エルジア]を名乗り、15日、ユージア大陸全土の戦闘機工場、軍港などを襲撃。統計によると死者は485名、負傷者は少なくとも1450名以上。エルジア軍決戦兵器メガリスを占拠したエルジア軍残党との繋がりをISAF軍情報本部が調査中。政府筋によれば自由エルジアを統率しているのは旧エルジア空軍将校との事、それに大陸各地の残党が呼応したものと見られる。なお、自由エルジアは先の[デラルーシ航空84便攻撃事件]の犯行声明を出しているとの情報も本誌に匿名で寄せられている

なお、自由エルジア掃討作戦カンティーナを円滑に遂行する為に予備役登録していた大陸戦争の英雄[メビウス1]を現場復帰させる事をISAF軍が表明。本格的に自由エルジアを追い詰める事を強調した」

グリースメリア・タイムズ 2005年12月16日 国際面記事及び一面トップの記事より抜粋

アナトリア国際空港 2006年1月10日 17:45
「よくぞ来てくれました!ラインハルト中佐!」
一人の黒づくめの男が到着ゲートを通ってきた刹那に握手を求めながらにこやかに歩いてきた。しかし、刹那は苦笑しながら軽い敬礼だけを返す。
「今日からは一介の空軍少尉です。一国の空軍将軍である貴方がそう易々と握手を求めるものではありませんよ。私の機体は?」
「ああ、勿論届いてますとも。貴方の部隊と共にね。いやあ、本当に助かります。我が国の軍事力はひ弱で、ISAFにも加盟しておりませんからな」
「それでも我等を雇う金額はあったと言うのだから笑えるものだ。高い買い物とは思わなかったのか?」
刹那の部隊を雇うには、刹那の言い値で決まる。刹那にとって重要(どちらかの国の軍事力を削る必要がある場合や邪魔な人物が敵にいる場合)は非常に安く(中には1セントと言うものすらあった)、関心が低ければとても高い(今回は20億ドル)と言った具合だ。PMCや傭兵団・外人部隊からは「戦争代行人」(一部からは死神代行人)と呼ばれている。(錬度が非常に高いだけではなく、必要とあらば大量虐殺も辞さず、自己完結能力※独自の補給・情報網を持っているという意味※を持ち、そこら辺の中小国を2、3国に匹敵する戦力を持っていることから)と呼ばれていた。
「いいえ?まったくそう思っておりませんよ。反逆者共を討ち滅ぼすのであれば、安いものです」
刹那はムッとする。所詮はこいつらの考えはこの程度か、と。社会主義国の人間は保身の為には金を出し惜しみしない。何故なら組織の首脳部は保身と情報操作さえ上手く行けば金は腐るほど手に入る。常に失脚の恐れがある資本主義とはまったく異なる考えだ
「この地に展開する自由エルジア軍の総兵力は?」
「2万程度です。我が軍は10万の兵で包囲しておりますが、敵に制空権を取られて苦戦しております」
「・・・いくら社会主義国といっても、ISAFからの御駄賃は必要なのかね?」
「何ですって?」
「そちらの意向を知らないとでも思ってるのか?所詮は金が欲しいだけだろう?自分達を潤わせるだけの。戦争前はエルジアにべったりしていて、旗色が悪くなればISAFに情報を流して終戦後は協力する。小国は大変だな」
ククク・・・と哂いながら利用される小国の痛い所を突く。
「そうでもしないと生き残れんとですよ。あなた方だって、他国に利用され、そして生き残る為に利用しているでしょう?」
「利用される?ククク・・・不和の種をまいて利用しているだけだ。金を得る為に血を浴びる事の何所が悪いのやら・・・さて、仕事につきましょう。愛しい戦場が私を待っている」
"時計は銃弾により既に壊れ、彼(か)の者の時は戦場にいる間は動く事は無い"

"されど、彼の者は戦場から離れる事は無い"

"だからこそ、彼の者は最狂で、最凶で、最強で、無敵で、最悪の人種なのだ。"戦争狂"と言う人類は"

アナトリア 自由エルジア軍基地 21:45
「状況はなお最悪・・・かつての君の母国も冷たくなったものだ」
「・・・言うな」
南雲はかつての上官について行き、自由エルジアに入った。そう、彼が84便襲撃事件の犯人でもある。当時の自由エルジアの空軍力は非常に脆弱でまともに動かせる戦闘機は彼の戦闘機しかない上に、既に友軍が包囲されていた以上はどうしようもなかった。ISAFの目を逸らす為に止む無く民間機を攻撃した。結果としてISAFの目が国籍不明機捜索及び不明乗客に傾注し、部隊の40%程度がうまく逃走し、自由エルジアに合流できた。勿論、84便を落とそうとはせずに損傷させる事だけが目的だった。ただし、"相手の機体が中破する程度に"というかなり無茶な指示付きで
「聞いていると思うがISAFはあのメビウス1も戦線に投入したそうだ。・・・・これから我々はどんどん厳しくなる」
「・・・ええ」
愛機に寄りかかり、上向きながらも答える。その時、空襲警報が鳴った
≪彼我不明機、方位3-2-0、高度25000より速度1100ktで接近中!戦闘機は緊急発進(スクランブル)せよ!!繰り返す!――≫
「!航空機、しかも1100ktだと!?馬鹿な!この国の空軍機は全て・・・!ま・・・まさか・・・」
まさかISAFが―と南雲の口が続く前に5分待機していたスクランブル機が出撃した。接敵まで10分を切っていた。パイロットとしての直感、そして生存本能が彼を出撃準備へと急がせた。
「上げられる機体は全て上げろ!」

アナトリア 自由エルジア占領地上空 21:50
≪"魔弾の射手"の御一行の到着だ。セイバーリーダーよりセイバー全機へ交戦するぞ≫
≪OK、セイバーを援護する。フェニックス各機、高度75000に降下するぞ≫
10機のMig-21が超音速で敵地を侵攻する。だが、搭乗員ははるか後方でフライトシュミュレーターのような画面で航空機を操作しているだけだ。さらに高度85000にA-12(SR‐71の迎撃機)が15機がウェポンベイにAAM-4改を搭載し、同じく超音速で飛行する。ただしこちらは搭乗員が乗っている
≪お客さんだ、ターゲットαから5機飛んできた。セイバーリーダーよりセイバー全機へ、良い経験になる。我々の機体は"お釈迦にしても構わん"そうだ。一機でも多く屠れとのお達しだ≫
≪了解、良い所は取って行くからなあの人は、まあそんな所が良いのだが。セイバー104交戦!≫
セイバー隊の彼等は戦場に立つに値しない[ひよっこ]だ。機体は旧式で安いモノを使わせる。しかも此方の人的被害は皆無、さらに当事国に燃料代・整備代・人件費その他諸々を100%負担させるので全く"財布"にダメージはない。経験を積ませながら、一機でも多く減らさせる。その後に本隊が制圧する。これが刹那にとって"関心の低いどうでも良い紛争"に対する戦闘方法だ。因みにA-12の航空隊は、制空権の確保のみを目的としているのでセイバー隊が全滅したら本隊の到着まで敵機を攻撃し続ける。
「全機、ブラックデスサイズだ。おまけぐらいは残しておくれよ。セイバー隊が戦闘速度を下げ始めた」
≪解ってますよ。フェニックス各機へ、攻撃待機だ。この高価な機体は壊す訳にはいかん≫
「セイバー各機、敵機を抑え込め。高度10000、マスターアームON。こちらで火器管制を受け持つ。敵機をちゃんと狙えよ」
≪セイバーリーダー、ラージャッ≫
本隊とはたったの1機、つまり刹那のファントムの事だ。今の所は無人操作の中継機としてセイバー隊の後方100nmで待機している
≪セイバー隊、敵機と接触しました≫
「宜しい、エースブレイカー仕事だ。セイバーのファイアコントロールを全てお前に渡してやろう」
MFDのチェックリストを淡々とこなし、あとはウェイポイントをゆっくり定刻どおりに通過するだけだ。
≪ブラックデスサイズ、フェニックスです。セイバー隊、攻撃開始しました。ミサイルの白煙が確認できます≫
≪不思議なものです、勝手にミサイルが飛んで行きましたよ。!来ました、セイバー102ブレイク!≫
旋回時のGなど機体の限界まで気にする必要はない。ある意味最上の無人機なのかもしれない。
「セイバー全機の状態は極めて良好だ。此方でも手に取るように戦闘の推移がわかる」
≪初撃は完璧ですね、損害ゼロです。撃墜2機確認≫
「だが、気を抜くなよ。被弾したら敵の基地に突っ込ませろ」
いくら刹那が[ひよっこ]と言うとしても、素質や才能は中々抜きん出ている奴しかこういった戦闘には参加できない。
≪105、あのMig-29を挟むぞ≫
≪了解、任せろ≫
強力なエンジンに換装されているこれらのMig-21は推力の為すがままに、機体の限界の8.5GまでかけてMig-29の背後に回り込む。
≪クソ!何なんだこいつらは!引き離せない!≫
≪レッド16、今から援護に向かう!持ちこた――≫
≪107、スプラッシュ1。脱出は未確認。流石正確無比のファイアコントロールだ≫
Gや戦闘の恐怖をあまり知らない[ひよっこ]に良いように弄ばれる[実戦経験を持つベテラン]。何も兵器に乗り込んで戦う必要など無いのだ。それに感情を持たぬコンピューターが正確無比の攻撃を繰り出す。
≪時代はどんどん変わっていく、人間が戦う時代はもう間もなく終止符が打たれるわけだな≫
フェニックスの誰かがそう言った。
「否、それは無い。人間とは革新的なモノへはまず恐怖を覚え、拒絶するものだ。まあ、餓鬼は例外だろうな。奴等の好奇心は時に訓練された兵士の索敵能力を大きく上回る」
≪・・・・確かに≫
そう、セイバーの連中の多くはまだ14~15程度だ。未だ好奇心は大人より多くある。
≪セイバー108、被弾しました!≫
「!・・・了解だ。そちらの操縦を引き受ける」
脱落した友軍機の操縦をAIに引き渡す。AIは即座に機体を急降下させて敵航空基地のハンガーに突っ込ませた。内部にいた整備兵やパイロットたちの命を奪い、戦闘機5機とその武器弾薬、燃料を徹底的に燃やし始めた
「セイバー108、ダウン。今夜のお前らの食事は108持ちだな」
≪・・・・解ってますよ≫
苦笑交じりでやられた相手に言う。

2に続く
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