HOME>スポンサー広告

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
HOME>SS

第四十五話:死は風に乗って

ファーバンティ郊外 エルジア軍試験飛行場 18:50
・・・・コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
「・・・遅い到着だな」
遠くから響く戦闘音も恋焦がれるほどに嗅いだ硝煙の香りや重油やケロシンの鼻に付く臭いももう一切しない戦場から離れた飛行場で、刹那は嫌と言うほど聞いたエンジン音を聞いた。その機体は明らかにオーバースピードで滑走路に進入してきたが、30ftぐらいでコブラをかけて急制動し、見事な三点着地をした。
「ほぉ・・・さらにソフトがアップデートされていたか。まったく、"成長するAI"とは恐ろしい物だな」
機体の挙動を見て少し驚く。エースブレイカー(撃墜王撃破)と言う名のAIの最新型は周辺の状況を察知するだけではなくAI自身が戦闘技術習得を行なえるようにした、つまり「成長し続けるけAI」なのだ。しかも戦闘や訓練をしてる最中も自動でソフトを更新し続ける。滑走路上で反転し機体が止まると同時にキャノピーが開く。中には誰も乗っていない。乗り込むと後席に用意されていた耐Gスーツに着替えてJHMCSを軽量化、多数の戦術処理を出来るように改修したヘルメットを被り、マスクをつけてキャノピーを閉じる。

You Have Control Sir

MFDにそう出ると即座に操縦桿とスロットルレバーをチェック。計器類も全てチェックする
「I Have、さて帰るか・・・」
スロットルレバーをミリタリー出力に叩き込むとFE‐14エンジンが甲高い唸りを上げて機体を押していく。
80ktで全ての速度計をチェック、150ktで機首上げを開始し、200ktでフワッと飛び上がる。直後RWRから警報を受ける。ISAF空軍機が差し迫った事を示しているのだ。
「ECMミュージックオン、出力60%」
マスク内のマイクが拾った音声にAIは機敏に反応し、ECMを出力60%で作動させる。一旦RWRは静かになったが、また鳴った。ECCMを使ったのだろう。舌打ちしながらA/Bの最大位置のスロットルを叩き込み機体を方位2-7-0に向ける。エンジンの音が急速に変わっていくのをサイレンサー越しにも聞こえる。
ガシュン・・・ギュアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
A/Bが正常に作動するのを確認すると、ハイレートクライムに入った。
「逃げられるかな?さっさと高度上げないと厄介だ」
兵装システムを立ち上げると、零式奮進弾が1発不足している事に気付いた。それで少しニヤつく
「X-02を葬ったか、ご苦労・・・・高度25000、速度320kt」
ハイレートクライムからポジティブクライムに移行し、速度を稼ぎにかかる。まだRWRの反応が敵機にロックされている事を示していて、刹那は思考をめぐらしていく。
(攻撃するか?・・・いや、交戦してる余裕は無い。逃げの一手で行くか)
燃料の残量から考えたら後ろから追ってくる敵機にミサイルを放って逃げる手もあるが、UNFの追手も考えなければならない。何故なら自分は脱走兵、しかも持っている情報はそこらの将校とは比べ物にならない。それならば地の果てまで刺客が来たとしても不思議ではない。それどころか接触してくる勢力も多い筈だ。自衛手段は少しでも多く確保しておかないとヤバイ事になる
≪・・・!―――!ブラックデスサイズ!聞こえているのだろう!?応答しろ!!≫
後方のISAF軍機が無線に割り込んできた。即座に無線の電源を切る。
(五月蝿しいんだよ。狗と交わす口などもう持っていない・・・・!!)
ビイイイイイイイイ!!!
MWSが悲鳴を上げて、搭乗員に警告する。
(・・・・構ってる暇は無いんだ。悪いがお遊戯はまた後でな)
スロットルをA/Bに叩き込み、機体を加速上昇させる。AI[エースブレイカー]が兵装システムにアクセス、零式奮進弾にセットして防御迎撃をスタンバイする。刹那は兵装システムへのアクセスを閉じるとAIに言い聞かせた
「・・・・その必要は無いよ、この程度のミサイルをかわせないで逃げられると思っちゃいない」
MWSから得た方位情報を後方警戒IRSTとレーザー測定儀にデータリンク、ミサイルの現在位置を補足させる。
「機種AMRAAM・TypeC・・・・距離20nm、高度34000降下中、速度870kt、方位0-8-7。被弾確率75%・・・回避行動に移る」
チャフをばら撒きつつ、速度を稼ぐ為に0Gで降下。降下角45度で操縦桿を戻す
「ECM出力95%、ラム・ジェットスタンバイモード・・・650kt、7500以上で作動開始」
コンソールを素早く叩き、MFDパネルに表示されたチェックリストを目で追いながら計器類をセットする。
「エンジン温度許容範囲内、燃焼室再点火開始、燃料タンク切り替え、タンク1&6バブル接続解放JP-7・・・オーライ。高度8400、速度720kt。ラムジェットエンジン始動開始。You Have Control」

I Have Sir

高バイパス比ターボジェットであるFE-14のエンジン音が急速に変化し、推力が増していく。ミサイルが後1kmに迫った時、AIに操縦を任せた機体は強大な推力の力任せに急速反転し上昇に転じる。刹那は機体の挙動に新兵の様な怯えと迷いを感じる。やや焦ったような機動だ。誘導抵抗により無駄に速度を殺している
「・・・・怖がるな。成長すると感情まで持つのか、こいつは」
クスッと微笑うとコンソールを再度叩き始める。エンジンの出力設定を変更し、リミッタを限定的に解除した。さらにグンと速度を上げていく。速度は上昇中にも拘らずに950ktを超えた。迫ってくるAMRAAMは失速し降下を始める。
「宜しい、I Have」

You Have Sir

刹那はスロットルレバーをA/B最大から2/3の位置に持っていった。巡航速度で飛ぼうと言う考えだ。とは言ってもラムジェットエンジンの巡航速度はマッハ2を優に越す。因みに同じ高バイパス比ターボジェットエンジン搭載機SR-71はマッハ3で航行できる能力を持っている。追跡はほぼ不可能だ。SAMなら話は別だが、タイフーン並にRCS(レーダー反射面積)を減らす為に全体の構造材にRAM塗料を塗っている。それにECMも強力であるのも加えられてECCMによって軽減されているにしてもレーダー画面のノイズは酷い
「次の手はどんな手だ?核か?それとも隕石を降らせるとでも?追いつけるものなら追い縋って見せろ」
速度が上昇するにつれて、高度もグングン伸ばしていく。
「・・・・まあ、この高度まで追いつける戦闘機・ミサイルがあれば見てみたいものだがな」
高度は既に5万フィートを超え、速度も910ktと言う超々音速でゆっくりと上昇中。ラムジェットエンジンの推力の御陰だった。ISAF軍機も海軍艦艇も撃つ事が出来なかった。何故なら相手の速度はSM-3並の高高度迎撃用ミサイルでなければ命中させる事は無理だったからだ。それにECMが加わり捕捉すら難しくなっていた。一応機内は2万フィートの気圧を保っているとは言えど、非常に寒くマスク無しでは息苦しい。
「・・・・・振り切ったな。フゥ・・・・・ッッ!?」
センサー類から敵機の反応が消え失せ安心した瞬間、撃たれた肩の銃創が燃える様に痛み出した。恐る恐るパイロットスーツを少し脱ぐと、止血パッドの効果も無く血はまだ流れていた。
「・・・・盲管銃創か。・・・・まずったな」
止血パッドを外して、銃創口を開いてみると弾片がまだ残っていた。しかも静脈が2本切れているのがくっきり見える。もしかしたら動脈も切れてるかもしれない。貫通銃創だと思っていたので、止血パッドだけで脱出していた
「良くもまあショックで心臓が止まらなかったものだな・・・・とりあえず抜かないとヤバイ。急がないと」
緊急時のメディックキット内の輸液や、ナイフ・メス等といった刃物も後席に設置されている緊急用戦闘脱出BOX(イジェクションシートに備え付けられている。脱出時にGPS追跡装置が作動する)の中だ


ノース・ベルカ 廃飛行場 20:10
「もう少し・・・もう少しだ・・・・」
これまで高空を超音速で航行し気象用ロケットの様に見せかけてオーシア軍やベルカ軍のレーダー網を掻い潜って来た。既に暗い中、ゆっくりと降下するファントムⅡはかつて自分が忘れられないかの男・・・・アントン・カプチェンコと最後の出会いをした飛行場への着陸体制を整えた。止まらない出血で意識は朦朧としかかっていた。
ドヒュッ・・・・ザアアアアアアアア・・・・・・
整備の行き届かないこの空港は滑走路上に雑草が生え、細かな砂が薄く積もっていた。それらを巻き上げながら刹那の機体は着陸した。
「ハア・・・・ハア・・・・」
後席から緊急手当て用の用具を取り出し、摘出・修復中に眠たくなるのを防ぐ為に麻酔せずにフラッシュライトを当てて消毒し切開する。
「ッ!」
カラン・・・
声にならないほどの激痛に耐えて弾片を取り出して捨てる。輸液を点滴しつつ、血管を修復し、傷口を塞ぎ再度消毒する。そして、痛み止めにモルヒネを一本打った。
「後は迎えを待てば良い・・・・しかし、モルヒネを打つと眠くなるな・・・・血圧が下がるからか・・・・」
瞼がどんどん重くなるが夜風でまた目が覚める。それを繰り返し、繰り返し・・・そうこうしてる内に夜風にも慣れたのか、体温が下がったのか何時の間にか眠っていた。

次に目が覚めたのは僅かに開けたキャノピーから風が入る愛機のコックピットの中ではなく、暖かいベットの中だった

ファーバンティ郊外 19:10
「ふう・・・体中がガタガタね・・・・」
脱出したメビウス1は目立ちそうな丘に向かって脱出時のGや空戦時のGで悲鳴を上げている体の節々を時々押さえつつ歩いていた。SARヘリの救護を待つ為である。
「・・・・?」
丘の頂上が見えてきた所で上空から一枚のハンカチが舞い降り、丘の頂上へと落ちた。陸の頂上に目を向けると人が二人立っていた。
(エルジア兵?・・・・いや、何か違う)
レッグホルスターからグロック21を取り出し、様子を見る。飛んできたハンカチを埋めて、二人は祈り、泣いていた。少年の着ているジャケットに見覚えがあった。
(あれは・・・黄色中隊のジャケット・・・航空雑誌で何度か見かけた・・・・)
グロック21のスライドを引き、初弾を薬室に送りセーフティーを解除した。出来る限り音を出さないよう気をつけたが所詮は射撃訓練で何十回しか撃ったの事の無くプロではない人間に以上の事を音を出さずにやって見せるというのはまず無理だ。さすがに気付かれた
「誰!?」
聞こえたのはエルジア語ではなくFCU共通語であるオーシア語だった。少年が銃をもって此方に向けようとする反射的にメビウス1も銃を向ける。少女が少年の銃を抑えた。
「大丈夫・・・ISAFのパイロットみたい」
(・・・レジスタンス?なら何故黄色中隊のジャケットを・・・・?)
疑問を持ちつつ、銃を下に下ろしてセーフティーを戻す。
「貴方達は誰?」
「・・・・」
相手は答えない。しかし、黄色中隊のジャケットを持っていることから少なくとも彼等に接点を持っていただろう。黄色ほどのプライドを持つ連中ならジャケット一つといえど我々には渡さない。
「・・・・そう。まあ、いいわ・・・。黄色が堕ちた事で戦争も終わった・・・もう、誰も撃たなくて済む」
「!」
"黄色が堕ちた"の一言にビクッと反応する二人。どうやらメビウス1が考えていた事は的中していたようだ。
「お二人さん、私のコールサインはISAF空軍の戦闘機パイロットメビウス1。身辺上の事はそれ以上のことは言えないわ。救助が来るまで時間がかかるし、お話しましょ。・・・・貴方達は?」
「・・・・・ぼくは・・・」

ノースベルカ 05:06
「・・・・コレは一体何の冗談だ?」
日の光に刹那は気が付いたらすぐさま視覚・聴覚・臭覚・第六感で周辺の状況を探った。まずは自分は室内のベットにいて、そこまで何者かに運ばれ、上着まで脱がされた(武装解除されたという理解で、何をされたかは考えていない程度の思考)。そこまでは理解できた。しかし、今自分のベッドの中に潜り込んでいる銀髪の見覚えのある女性はどう言う訳だか懐いた猫のように身体を寄せている。自身の装具は室内には見当たらず、小鳥の囀り、風のきる音しか聞こえない。少なくとも、この自分に擦り寄るように寝ている女性・・・ガーゴイル1の寝息も静かだ。しかも熟睡している。さらに注意深く見ると扉から風が多少吹き込み、F-4が駐機する空港が見える小屋と言うところまで首と上半身を回すだけで理解できた。
(・・・・何時からこいつは私達の動きを監視して、待ち伏せしていた?"取引"の内容を知らない連中が居ればそいつが私を捕らえようとするのは分かるが・・・何故何の拘束も哨戒員もつけない・・・?)
取引とは今回の戦争で刹那が捕らえた例の"暁"の幹部の身柄をUNFの迎えの艦艇に引渡し、吐かせた情報を国連関連組織・オーシア大統領・ユーク首相・エメリア首相・ノースポイント国防省・サウスポイント国防省・ベルカ元国王・一部傭兵団等といった反"灰色の男達"の組織、国、個人などに渡す事。見返りはISAF連盟国に対し自分の部隊に対する追撃を"強制的"(武力行使・経済封鎖など、理由は後付でも構わない)にやめさせること。9月20日23:59:59までに全て完了せねばならない。1秒でも遅れれば見返り無しの上に信頼もガタ落ちだ。何はともあれ、連絡手段を確保せねばならない。動こうとした瞬間に右手首に手錠がかかっておりそれは彼女の左手首と繋がっている事に気付いた。
(成る程、ある意味嫌な拘束だ。私がお前を殺そうとすれば感づかれ、防がれて反撃で私は死ぬ。お前ほど長い間共に過ごした時間が長い人間は居ない。全ての動きと弱点を知っているからこそ出る余裕か・・・・コレじゃ動けないし、銃創跡の治癒も完璧ではない。確実に殺られるな・・・・)
彼女の銀髪をサラッと撫でながらそう思った。しかし、本当に自分と瓜二つだ。育った環境が同じならこうなるものなのだろうか。そうふと思いつつ朝日を見ているともぞもぞと動いているのを感じた
「・・・・!何だ起きてたのか、驚かせるなよ」
「そりゃあ、ね。襲われないかとハラハラしっぱなしだったわ」
「そんなに野蛮に見えるかな?それより私の部下はどうした?殺ったのか?」
「フフ・・・冗談よ。貴方の部下?大丈夫、我々との"取引"が終わるまでは貴方が人質代わりよ。この状況、分かってるわよね」
何気なく傷口を指でツンと突く。ズキッと言う痛みにピクッと反応しつつもいつもの無表情のまま相手を見返す。
「しかし、何故殺ってくれと誘うような拘束の仕方なんだ?ベットに括りつければ十分だろう」
「そんなんじゃ怒るかなと思ってね、今の所は順調よ。貴方の部下は自白剤使うのが早くて助かるわ。仕事が早く終わる」
「それは良かったな。私個人としても歓迎したい事だ。さっさとこの状態から解放されたいものだ。それに寒い」
「人肌で暖めてあげようか?」
「・・・・怒るぞ、任務中に私欲を挟み込むな」
サラサラの彼女の髪をクシャクシャと撫で上げて表情を緩ませる。いつもこんな感じだ。二人だけのちょっとした時間があれば彼女は自分を求めたがる
「貴方はいつも硬いよ。硬すぎる・・・二人だけなんだからね・・・・」
「これが終わったら好きなだけ相手をしてやる。全任務が終わったわけではない。まだ義務が終わっていない。パソコン寄越せ」
「・・・・冗談に決まってんでしょ。はい、パソコン」
「・・・・精密機械は丁寧に扱わんか、馬鹿者」
彼女は机の上に置いてあったノートパソコンをパッと投げる。ムッとしながらそれを受け取り電源を入れ、即座にメールフォーラムで新規メールを書き始めた。あて先は自身の部下に向けてある

シュチュエーションは?

回答は直ぐに帰ってきた。

イエロー Sir

イエロー・・・状況は多少芳しくないという意味だ。直ぐに返答する

Roger 可及的速やかに情報を引き出せ。手段は問わない。但し、ターゲットの生存が第一任務である事を忘れるな

返答は素早く帰ってきた。

可及的速やかに、手段を問わず、生存第一義、Roger

メールを打つ手を一旦止めると同時に背筋が凍るような殺意を感じた。しかも、無数に多方向からだ
「・・・・!」
「・・・・今の・・・感じた?・・・・こんな数の殺意は初めて・・・警察では無いわね」
彼女も同じく殺意を感じたようだ。
「・・・・50・・・いや100近いな。私一人ならそれぐらいで十分だろうな・・・だが、二人なら超えられるかも・・・・手伝ってくれるか?」
「当然よ、一緒に待ってたって殺されるだけじゃない」
ベットの下から武器と刹那の服及び地上戦闘用の装具を渡される。Knights 6x35mm PDW(ナイツ社の最新PDW)を持つ。クロスコムを互いに周波数を合わせて、銃に初弾を装填する。
≪やれやれだ。何所から情報が漏れた?≫
≪貴方の所じゃないと思う。貴方の部下なら私が動いている事くらい分かるわ≫
≪私には伝えなかったと?≫
≪フフッ・・・聞かれなかったからじゃないの?≫
≪ハハハ・・・違いない。あいつ等は言われた事は10点中10点出来ても、言われて無いことは3点しか出来ない連中だからな。そう教えた。・・・・・・そろそろ来るぞ≫
外の殺気がさらに大きくなる。音も聞こえない事から一斉射撃の準備をしている様だ。
≪・・・・タイミングを合わせて窓から行くわよ。よろしい?≫
≪当たり前だ、戦闘狂≫
≪口が過ぎるわ、殺人鬼≫
互いに口を悪くしつつも、ハンドサインでタイミングを計る。
(3・・・2・・・1・・・GO!)
ガシャァァン!ドドドッ!タタタッ!ドンドンドン!ガガガガガガ!!タン!タン!タン!タタタタタタタタタタタタタ!!!
飛び出た直後に一斉射撃が小屋へ行なわれる。窓の周囲に向けて発砲した敵をPDWでヘッドショットを喰らわせて射殺し、即座に振り返って制圧射撃を喰らわせる。
≪PDWじゃ制圧力に欠けるな。ナイツ社に文句を言っても始まらんが≫
≪ぼやかない、ぼやかない≫
適当に弾をばら撒いているというのが正確な表現だが、それでもこれだけの人数に向けて乱射すれば5~6人には当たっている筈だ。しかし、誰一人怯まない。外見上どう見てもレベルⅢ以上の防弾チョッキを着ているとは思えない
≪クソ!このブリキ共は硬いぞ!!≫
≪薬で"ハイ"になってるか、途轍もなく酔っているのか、それとも心酔しすぎて"バーサーカー"状態になっているんだと思う・・・その分多く叩き込むか、心臓を撃ち抜くか、脳味噌をぶっ飛ばしてやらないとダメね≫
≪・・・冗談キツイぞ。此方コマンダー、ARCアルファ3-0応答しろ。・・・3-0、応答しろ。・・・・3-0?≫
周波数を変えて、オーシア大陸の支部のARC部隊を呼ぼうとする。しかし、繋がらない
≪・・・・ECMだ。近距離じゃないと連携も取れないな≫
≪相当前から計画的に練られていたようね。内通者を炙り出さないといけないわ≫
≪それは結構だが、この変態共をどうやって殲滅するんだ?弾が持たないし、数が違いすぎ――・・・・!≫
刹那はようやく気付いた。愛機がフル装備で駐機しているのだ。しかも、外部から命令を下せば勝手に"掃除"してくれる半分無人戦闘機なのだ。何も自分達だけでやる必要はない
≪・・・おい、私の機体は何所にやった?≫
≪空港のハンガーでカモフラージュして隠してあるわ。大丈夫、元はといえば核攻撃も想定していた爆撃機用の格納庫で外からの攻撃では簡単には壊せない様に作られてるし人間が通れる入り口は駐機用の大型のシェルター口しかない。鼠なら朽ちかかったフィルターを吸気口から通って入ってくるけどね≫
≪安心した。開けられるか?≫
≪電源室で電源を入れないと無理ね、開くのに2分は必要だわ≫
≪よし、一気に退くぞ。援護するから先に行け≫
≪了解!≫
フルオートにセットし、ワラワラと向かってきて撃ってくる集団に銃口を向ける。
≪行け行け行け!≫
タタタタタタタタ!
援護射撃を加えつつ、素早く移動する。2、3発喰らえば流石に倒れるが、それでも敵は硬い上に死を恐れず数が多い。5、6回マグチェンジするほど撃ってもまだ2/3はいる
≪電源室に辿り着いたけどこっちにも伏兵が居る!クソォ!開けられない!!≫
≪何だと!?今からそっちに向かう!≫
状況は最悪、この馬鹿みたいに硬い敵兵を全て倒さないと任務どころか自身の持つ情報が危うい。電源室は激しい銃撃に晒されていた。
(コレだけはしたくなかったんだが・・・止む終えないな)
無線周波数を航空用に変えて静かに告げる
≪・・・・エースブレイカー、起動しろ。仕事の時間だ。外に居る敵兵を全て薙ぎ倒せ。全てだ≫
キュウウウウウンヒュイイイイイイイイ!
JFSの起動する音がハンガーから漏れ聞こえる。直後に二基のジェットエンジンが一気に高鳴る音を山中に響かせた
≪伏せろ!早く!!≫
≪え!?≫
≪いいから伏せろ!!≫
バシュッ!!ドン! ヴォオオオオオオオオオオ!!!!!
ハンガーの搬入口をミサイルで破壊し内からF‐4が出てきた直後、それは機首を旋回させてM61A2バルカンの火を吹かせた。装弾数は改修した際に1200発に増えて、発射速度は2000発~1500毎分に落としている。その為、ゆっくり旋回しているのにも拘らず、非常に長い時間発砲出来る様している。
≪うわっ!危なっ!≫
≪頭を上げるんじゃない!掠っただけでもスイカが破裂するように頭が吹っ飛ぶぞ!≫
その言葉の通り、敵は胴体・首・手足が血霧となって消滅し、斃れて行く。タングステン鉄鋼+炸裂弾+曳航弾のミックスだが20mmと言う大口径、そしてマッハ3を超える弾速によって当たった・掠った部分を文字通り血霧にしているのだ。じきに動く敵は居なくなった
≪ご苦労、射撃止め≫
≪死ぬかと思ったわよ・・・・≫
≪生きてるじゃないか、さて任務に戻るとしよう≫
刹那は銃を置き、携帯を取り出した。先程の銃撃でノートパソコンが壊れたと思ったである。メールを開き、新規作成を選び内容を書こうとしたとき新しいメールが入って来ている事に気が付いた
(なんだ?ARCのメールアドレスだな)
何かと思いつつ、新規メールを確認する

奴は"折れた"

シンプルな内容だが一発で理解できた。直ぐに返信する

了解 予定通りに所定に情報をリークし身柄を例の連中に引き渡せ。その後はオーシア支部に向かえ

携帯を閉じると自分の頬が釣りあがっている事に気が付いた。悪い癖だ。仕事が終わる時と戦っている間は口が僅かに上向いてしまう。彼女がそれに気付いたようだ。
「終わったの?」
「ああ、終わった。あの大陸は残党を始末すれば今後10~20年間は無菌室化出来る。その間存分に我等の様な第四勢力が権力を伸ばせる。だからお前もこの戦争に乗ったのだろう?ハートセキリュティ※第1飛行中隊隊長?」
「言えてるわ。傭兵組織:「ブラック・ツイン・ドラゴン」戦闘部の部長さん」
※イギリスのPMC「ハートセキュリティー」社(職務中死亡した斉藤氏が所属していた民間軍事会社[建前は民間警備会社であり傭兵ではない、それにPMCは傭兵と誤解されないよう社員の規則は厳しい。某スパイゲームのようにドンパチをする為の会社ではない。元特殊部隊員など軍人・警官などが多い])とは一切無関係である。念のため※
「・・・しかし、君等がこの話に乗ってくれて助かったよ。御陰で丁度良く此方のスケジュール通りに言った」
「それはうちの社長にでも言ってよ。でも本当何所から情報が漏れたのかしらね」
「それなら少なからず思い当たる所はある。・・・・ISAFの連中か、エルジアの残党だろう。私に恨みを持つ連中といえばそれぐらいしか居ないし、それに灰色の男達は此方の規模どころか誰が首謀者かすら知らんだろう」
刹那は自分の手の内にある情報を探り寄せ、正確に絞り込む。
「ISAF!?それじゃうち等の脅しは効かないんじゃ・・・・」
「効くよ、100%・・・いや1000%は保障できる。奴等の生命線を握ってる者が私の掌中にある限りはな」
「!・・・ノースポイントとサウスポイント!・・・・・成る程貴方が育てられ、育てた所だものね。流石抜け目無いわ。・・・・でも情報を流したのがエルジアの残党だったら?」
「その時はもう一度あの大陸に戻る事になるだけだ。私のやりたい様やらせて貰うだけだよ。・・・・さて、私は24日には新たな仕事でオーシア、オーレッドに行かねばならない。仕事も終わった事だ。お前にも時間をやれる」
最後の方の言葉で彼女が猫じゃらしを追いかける様な猫の目になって刹那に抱きついたのは言うまでも無い。


10月25日 Holtz共同墓地 夕方
「・・・ここだ、トンプソン」
刹那はいつも通りの真っ黒なスーツに身を纏い、とある墓の前に来た。
「これが・・・アントン・カプチェンコ氏の墓・・・ですか?」
「ああ・・・此処に訪れるのは私も初めてだが、懐かしさはある」
カメラを携えて、手帳を片手に持つ記者、トンプソンは刹那が零す言葉を見逃さず書き留めている。9月24日までに何人かのエースに会う事は出来たが、やはり記者単独だけでは限界もある。こういう取材はその手の人間が必要なのは今も昔も変わらない。
「久しぶりだな、1995年末のB7R以来か。カプチェンコ」
反応はある筈が無い。話し掛けている相手は墓下の骨なのだから。
「知っているんですか?」
「・・・こいつの親族や部下ほどではない、が・・・・私に大きな影響を与えてくれた男だ」
トンプソンが刹那の言葉をメモっていると、墓に何か彫られていることに気が付いた
「・・・?・・・何か彫られてますね。ベルカ語のようですが・・・」
トンプソンがベルカ語の辞書を取り出そうとしたとき、刹那が静かに言った

 『新しい世界への門は開かれた』
THE GATE TO THE NEW WORLD HAS BEEN OPENED.

『我が魂は風となり、その門へといざなう』
MY SOUL SHALL BE THE WIND THAT ENTERS THE GATE.

『眠りし王の目覚めるとき』
WHEN THE SLEEPING KING AWAKES,

『私の肉体も蘇るだろう』
MY BODY, TOO, SHALL SURELY RISE.

「え・・・?解るんですか?」
「これでも世界中の戦場を渡り歩いている。世界中の言語が解らずに世界各国と契約書を交わせるか?」
「た、確かに・・・それで、この文の意味は?」
トンプソンが意味を聞こうとしたとき、刹那は前髪で目を隠して少し震えていた。
(・・・この文は私その物じゃないか・・・それに、灰色の思想にも繋がるな・・・・)
「・・・・この文にたいした意味は無い。気は済んだか?」
「ええ、彼の資料も貴方から頂きましたしね」
「では、行こう・・・ああ、そうだ。死者には最低限の行ないをせねばな」
刹那は静かに花束を置き、十字を切る。
「・・・カトリックだったんですか?」
「・・・神なんて信じていない。あるのは死神だけだ。死と生を操る最も忌み嫌われる神しかいないものだよ、この"血と硝煙と欲望の詰まった金貨で出来上がった世界"はな。・・・さっきの十字は奴の信仰していた神のだよ。私ではない」
トンプソンはカプチェンコの墓に水滴が付いている事に気が付いたが、刹那の顔を見て泣いていた人間の表情ではない事を確認した。
(・・・・まさかこの男が泣く筈無いものな。この血と硝煙と欲望の詰まった金貨で出来上がった世界で暗躍し、人を千も万も殺してきた男が・・・)
「どうした?」
「いや、なんでもないです。・・・あ、そうだ」
トンプソンは今まで聞くに聞けなかった事を聞いてみようと思った。
「何だ?」
「彼らが戦う理由は、何なんでしょうかって思いまして、聞くには聞きましたがいかんせん絶対数が少ないので・・・参考までに聞かせて欲しかったんです」
防弾仕様のメガクルーザーに乗り込もうとしていた刹那に失礼と思いつつも思い切って聞いてみた。
「戦う理由?決まっているものだよ。ある者は仲間の為、ある者は家族の為、ある者は国の為、ある者は金の為・・・・・ジュウニン・トイロってことだ」
メモに走り書きしながら、最後の言葉を聞きなおす。
「ジュウニン・トイロって?」
「ノースポイントの四字熟語の一つ、十人いれば好きな色も十個あるという事だ。つまり、人それぞれと言う意味だな」
「はあ・・・で、もう一つお聞きしたいのですが・・・・あなたは?死神と呼ばれ畏怖されるあなたの戦う理由は何なんです?」
二度目の質問に刹那はちょっと表情を崩した。
「私か?」
刹那は少し考えて答えた
「―――世界平和の為・・・それが最も適切だ」
トンプソンは刹那がやっている事に疑問を覚える。刹那は戦争を起こしたり、自身や部下を敵味方も無く送って紛争を長引かせたりと明らかに平和から遠ざかるような事をしているのだから。
「矛盾してませんか?」
「モノの捉え方によってひどく異なって見えるモノだ。これまで出会ったベルカ戦争時のエース達もこれから出会うベルカ戦争時のエース達も同じ、人それぞれ考え方はバラバラだ。これだからこの世界は面白い。そう、思わないか?」
化かされてる様な感覚、それがこの男と共に取材を続けている間に思った事だ。
「しかし、どうしてそう思えるのですか?我々が思い描く平和とはかけ離れた事をやっているではありませんか?」
「・・・一つ平和と言っても、色んな平和がある。表面上ではニコニコしながら裏では兵器でお互い脅しあい・にらみ合う平和もあれば、他国の紛争や緊張関係を見ることで自国は平和だなと感じるのも平和と言えばそうなのだよ。世界平和と言うのは世界中のパワーバランスが平衡している事を指すと、私は考える。何処かが突出すれば、そこに釘を打ち込んで殴って元に戻す。そうやって平和は得るものだ。今オーシアがオーシア国境で紛争をやってるのは、オーシアの力を削る為に仕組んだものだ。ユークがやっている地下資源をめぐる紛争も同じ意味があるし、ISAFとエルジアとの戦争は大陸の無駄に突出した軍事力を減らす意味もある。・・・それに平和の対義語は戦争ではなく、混乱だ
車のエンジンをかけながら刹那は言った。その全てをメモに書く事は出来たが、とても放送できる代物ではない事に後々気付いた。
「つまり・・・近年の戦争や紛争は"制御された戦い"、と言うことですか?」
「そう言う事だ。これまで一度も私の小さな掌からこの大きな世界がこぼれた事は無い。・・・そしてこれからも、な」

fin
スポンサーサイト

この記事のトラックバックURL

http://4253blog.blog115.fc2.com/tb.php/147-9f8f2b56

コメント

コメントする

管理者にだけ表示を許可する

 

Template Designed by めもらんだむ RSS
special thanks: Sky Ruins DW99 : aqua_3cpl Customized Version】


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。